グラマーの雅歌
ルーンクエスト・シナリオ
グラマーの雅歌 
目次
- はじめに
- シナリオの概要
- 登場人物紹介
- キャラクター・メイキング
- はじめに
- ジョヴァンニの姪
- 技能
- 役職・肩書き
- シナリオ
- 第一日目 火の季・豊穣の週・風の日
- 第二日目 火の季・豊穣の週・火の日
- 第三日目 火の季・豊穣の週・荒の日
- 調査活動
- ファーゼスト
- 第十一日目 火の季・静穏の週・神の日
- 参考資料
- 用語解説
- 最後に
- 参考文献
- プレイヤー・キャラクター:
- 3〜5人用で初心者プレイヤーおよびRQ初心者には薦められません。キャラクターは全員ファーゼスト現地軍団附属神学校(*1)のひとつである聖フワーレン士官学校(*2)の生徒です。キャラクターは10代の少年少女が望ましいです。
(*1) については [6] 参考資料 を参照してください。
(*2) 以下についても同様です。
- シナリオの場所・年代:
- シナリオの舞台はコルドロス島の西方、ヒドラ山脈の麓に位置する聖フワーレン士官学校(ファーゼスト現地軍団附属神学校のひとつ)です。ファーゼストの位置はジェナーテラブックP.46の地図で確認してください。コルドロス島はオスリル川の中州で、ファーゼストのすぐ南にあります。聖フワーレン士官学校は公式の設定にはありませんのでマスターが地図に書き加えてください。RPGマガジンNO.62 を持っておられるならば、P.99の地図が、わかりやすく参考になります。
シナリオは1612年(第7ウェインの41年)火の季・豊穣の週・風の日(25日)から始まります。
PCは聖フワーレン士官学校の生徒です。PCのうち一人は必ず典礼式(*3)の聖歌隊員(*4)でなくてはなりません。また聖歌隊員となったキャラクターのひとりには、ジョヴァンニという叔父がいます。
ジョヴアンニはファーゼスト在住の作曲家で、複雑で技巧的な宗教音楽を旨とするフランドル学派(*5)の筆頭とされる人物です。1612年現在、属領地政府の精神指導官にして「赤い月」の審問官であるクラウディア・シファー司教はフランドル学派の異端審問を要求しており、これに応えたファーゼスト芸術家協会はジョヴァンニに作曲を命じました(ディーゾーラ・カルトが楽譜の公開を拒否したためです)。そして1612年の火の季・死の週・火の日(19日)にジョヴァンニの屋敷は完成した楽譜ごと火事で焼け落ちてしまいます。しかし彼は自分の元を離れ、聖フワーレン士官学校にいるただ一人の血縁であるPCに楽譜の複製(正確には2部作成したうちの一つ)を贈っていました。
ジョヴァンニの親友である“詩人”オンジュールは、親交のあったホラティオ・ホスティリウスに、亡きジョヴァンニの姪(もしくは甥)の保護を頼みました。ホラティオはファザールの親衛隊長を務めていましたが、シファー司教を中心とする帝国派(ターシュ人を被征服民として政治中枢から排除すべきと主張する一派のこと)の陰謀によってファザールが属領地軍将軍職を解任されて以来、彼とともに現在は野に下っています。ジョヴァンニ邸の炎上に帝国派の陰謀をかぎつけたホラティオは、彼らの犯罪行為の証拠をもとめて自らの娘を聖フワーレン士官学校に潜入させます。
一方、聖フワーレン士官学校の出納係にして教頭のエントウィスルは帝国派に属し、腰巾着のヒルミー・スコチポル主任(騎兵科教官かつドミトリィ担当主任)を利用してPCから楽譜を取り上げようとします。
PCは楽譜を守りきり、火の季・静穏の週・神の日にミリンズ・クロスで開催される公会議まで無事に届けることができるでしょうか。
- イヤミール:「平民風情が、このぼくに意見をするなっ!」
- ターシュ王国の地方貴族であるグラチアノ・フランジパニ伯爵のどら息子です。聖フワーレン士官学校はフランジパニ家の領地にあり、食糧や武器の購入等で当地の“商人”(フランジパニ家の御用商人)と関係が深い上に、フランジパニ家からの資金援助を受けています。そのためか、イヤミールは無試験での入学が許されました。もっともこれは彼に限ったことではなく、有力貴族や氏族の長が、次男や三男をやはり無試験で送り込むことも多く見られます。貴族(エリート)意識が強く、普段から平民階級の出身者(おそらくはPCたち)を侮蔑する発言を繰り返しています。ヒリスとマルテイという二人の子分が常に一緒にいます。
典礼式聖歌隊の隊員ですが、実力はさほどありません。平民風情の「ジョヴァンニの姪」が自分を差し置いて独唱者(ソリスト)に選ばれたことを逆恨みしており、ことあるごとに彼女に辛く当たります。
- エントウィッスル:「そこまでにしていただきましょう。」
- 聖フワーレン士官学校の出納係にして教頭(Supprior)で、赤の女神の入信者です。彼は帝国派の領袖であるクラウディア・シファー司教の命を受 けて行動しており、ジョヴァンニの楽譜が校外に持ち出されないよう、ヒ ルミー教官を利用して様々な手を打ちます。常に冷静で取り乱すことはあ りません。普段から慈悲深くにこやかな表情をしています。
- オンジュール:「ジョヴァンニはきみのことを、とてもとても大切に想っていたよ。それだけは、誓ってもいい。」
- 後の世に、「詩人」の二つ名を遺しています。「グローランサ年代記」では、ファザールの(義理の?)息子とされていました。このシナリオでは、後にファザールの娘と結婚して義理の息子になることを前提としています(1612年現在ではまだ結婚していません)。ジョヴァンニの親友で、彼の作曲に詩を提供したり、逆に自分の詩に曲をつけてもらったりしていました。
ジョヴァンニとはよく気の合う遊び仲間といった関係で、恋人に贈る詩にとびきり甘いメロディをつけてもらうといった類の頼み事をよくしていたようです。「グラマーの雅歌」(*6)の歌詞を書き下ろしたのも彼です。
- クスマウル:「あらあら、いらっしゃい。お茶でもいかが?」
- 聖フワーレン士官学校の校長(Prior)です。庭師と一緒に植物の手入れをしているのが趣味の老婦人で、ディーゾーラの女祭です。おっとりとしていますが、鋭い人物眼を持っています。この人物の前で嘘をつくことがいかに困難かは経験したものでないとわからないでしょう。
- クラウディア・シファー司教:「フランドル学派なるものたちは、霊的な装
飾をはぎ取り、現世的な人々の信心をかき立てるために物質的な装飾に頼ろうとしている。だがそれは、堕落と腐敗を投げ与えることに他ならないのだ。」
- 1612年現在、属領地政府の「ルナー精神指導官」の職にあります。ミリンズ・クロス(属領地政府の首都)司教座聖堂参事会議長も兼任しています。任期満了後はグッド・ショアの次期大法官になるであろうと噂されています。ターシュ国内の開明派と対立する帝国派の巨頭で、ジョヴァンニに代表されるフランドル楽派の奔放な教会音楽を嫌悪しています。
- ジョヴァンニ:「君が望むなら、この家を出るといい。」
- ファーゼスト在住の作曲家です。享楽的な性格で、女性にだらしなく、浪費家です。姉夫婦の死後、残された一人娘(PC)を引き取りました。フランドル楽派的対位法(複雑で技巧的な宗教音楽)に基づきながらも、音楽的な技法の追求ではなく、あくまでも信仰を目的とした宗教音楽をつくろうとしました。基本位置の三和音と不協和音が規則だって用いられ、歌詞の内容やアクセントを最重視して作曲しているのが大きな特徴です。
ファーゼスト芸術家協会議長のオルハンス卿の友人です。「グラマーの雅歌」を作曲し、聖フワーレン士官学校にいる姪に楽譜を贈りました。
故人です。
- パドローネ:「いやいや、困ったものですな。」
- オルハンス家の法律顧問です。やや腹の出た40歳くらいの人物です。髭の先を指で撫でる癖があります。ジョヴァンニの死を知らせる手紙を書きました。
- ヒルミー・スコチポル主任:「ずいぶん偉そうな口をきくのだな。ああん?」
- 騎兵科教官かつドミトリィ担当主任。ダラハッパ出身の職業軍人で、イェルムの入信者です。「光の息子」の選抜試験に選ばれなかったことを逆恨みして傷害事件を起こし、ターシュに流れてきました(このことは生徒達の間では公然の秘密となっています)。
体罰を与えることが教育だと信じており、しばしばそれを実践します。自分の考えに異論を唱える者の意見を理解できません。自分に従わないものはみな、自分を馬鹿にしていると思い込みます。ダラ・ハッパ流の男尊女卑を極端な形で体得しており、ターシュ人の女性を、聞き分けのない雌犬だと考えています。貴族階級の子弟に対しては、保身のため親切です。出納係にして教頭のエントウィッスルには頭が上がらないようです。
- ホラティオ・ホスティリウス:「あの方がいない軍なんて退屈なだけです。」
- ヤーナファル・ターニルズのルーン王であり司祭です。ファザールの最初の甥にあたります。ユーモアに欠けることはあっても、忠誠心と機転の速さでは抜群です。秘密の訓練を積み、謎の魔術を獲得しています。ラグーナの父親です。
- マズルカ:「私は信じるよ。」
- PCと同室になる予定の女生徒で、「騎兵科」の二年次に在籍しています。自他共に認める寮内の情報通です。性格はさばさばしており、氏族長(ターシュ国内でもルナー化していない辺境地域では、今だにかかる名称が用いられている)の嫡子であり特権階級に所属している身でありながら、身分の上下に捕らわれず人物をみる能力を備えています。
美人ではありません。背は高く痩せており、癖のある灰色の髪を後ろで束ねています。
- ヒリスとマルテイ:「イヤミール様に逆らうなんて生意気だぞ。」
- イヤミールの子分格です。彼らが成績不良で放校処分にならないのはなぜか、学校内では公然の秘密となっています。
- マルコ:「たいへん、たいへんですっ」
- 「歩兵科」二年です。年の始めより配達係(carriagemannus)を勤めています。その陽気で少しばかり軽薄な気質と、ちょっとしたミスをよくすることから、フワーレンのうっかり八兵衛(←?)と呼ばれています。
- ラグーナ・キーズ:「…………………………」
- シナリオの開始と同時に「ジョヴァンニの姪と同じクラス」の二年に転入してきます。転入にあたって届けられた生徒資料にはスレイヴウォール兵学校から特別推薦を受け、特例として転入が認められたと記されていますが、これは偽造したものです。地方貴族であるキーズ家の一人娘と偽っています。
本名はエルモーサ・ホスティリウス。16歳。ジョヴァンニの姪の身辺を警護し、なおかつ帝国派の違法行為の証拠を見つけるよう、命を受けています。年齢よりも幼く見える容貌のなかで、まれに虹色の光彩を放つ銀灰色の瞳が印象的です。可愛らしい外見からは想像もつかないほどシビアで現実的な意見を述べます。彼女は父親譲りの謎の魔術を修得しています。
このシナリオは、生徒たちが横暴な教師(ヒルミーのことです)をいかにやっつけるかをテーマの一つとしています。そのため生徒を中心にパーティを組まれた方が良いでしょう。もちろん、一人か二人くらいならば、教官をプレイされても問題はありません。またヒルミー教官の個性をアピールするためには、女性のキャラクターがいた方が好都合です。生徒の年齢は15から21歳までが普通です。教師の年齢は様々です。
キャラメイクの際には出身階級をきちんと決めておいてください。さらに自分とは身分の異なる生徒に対する態度も決めておくと良いでしょう。このシナリオでは身分の差を越えた友情も一つのテーマとなっています。自らを上手に演出してください。
さらに、シナリオ上のキーパーソンとして典礼式聖歌隊員でありジョヴァンニの姪となるキャラクターが必要です。詳しい設定は下をご覧ください。女性キャラクターをプレイできる人物がいない場合は姪ではなく甥ということにしてもかまいませんが、その場合は耽美な世界に耐えられる人がプレイすることを希望します。なお、事前に与えられる設定が細かすぎるとプレイヤーから敬遠される恐れもあります。その時は何とかシナリオを都合してNPCとして扱ってください。
- ジョヴァンニの姪:
- 聖フワーレン士官学校の二年次に在籍しています。「クラス」は自由に決めてください。あなたは典礼式聖歌隊の隊員であり、〈楽譜知識〉〈聖典知識〉〈古ペローリア語読み書き〉の技能を有しています。さらに天与の才能である〈歌唱〉を有しており、最近典礼式での独唱を任されるようになりました。具体的な技能値はあなたの抱くイメージに合わせて設定してください。
あなたは幼い頃に両親を事故でなくし、ジョヴァンニに引き取られました。ジョヴァンニは母の弟で、ただ一人の血縁です。その後、15の歳にジョヴァンニに無断で試験を受けて合格したあなたは、家を飛び出して聖フワーレン士官学校に入ります。受験費用等は両親の遺してくれた僅かな遺産から捻出しました(成人儀式以前は親権者のジョヴァンニが管理していたので勝手に使うことは出来ませんでした)。現在はファーゼストにいる篤志家から奨学金をもらって勉学を続けています。
ジョヴァンニは作曲家としては天才の名をほしいままにしていましたが一方で浪費家で女好きでした。あなたの誕生日に、あなたが一人待つ家に女性を連れてかえってきたこともあります。あなたが家を飛び出したのはなぜか、考えてください。
一年次のキャラクターは主に一般教養と基礎体力づくりが教練の中心となります。後述する各クラスに特有の技能は修得できません。〈新ペローリア語読み書き〉〈ターシュ語読み書き〉〈世界知識〉〈グローランサ知識〉〈カルト知識〉が特に向上します。武器技能も含めて技能値の目安は40%程度です。4ポイント分の精霊魔術を記憶しています。
二年次のキャラクターは各クラスごとに特有の教練に励みます。また一般教養もより細分化され、「カルマニアの政治形態の歴史的分析」や「ダラ・ハッパの太陽神信仰」といった講義も行われるようになりますが、生徒たちの間ではあまり人気はありません。武器技能も含めて技能値の目安は50%程度です。6ポイント分の精霊魔術(上限4ポイント)を記憶しています。
三年次のキャラクターの教練内容は、二年次と殆ど変わりません。武器技能も含めて技能値の目安は60%程度です。8ポイント分の精霊魔術(上限4ポイント)を記憶し、2ポイント分の神性魔術(全て一回限り)を有しています。
年齢による成長システムからすれば、技能値が高すぎるように見えますが、厳しい入学試験を突破し、日々訓練に明け暮れた賜物だと考えてください。また、能力値についても、低ければ入学試験そのものに合格できません。彼らは将来社会的な責任を負うことが既に約束されているエリートなのです。その義務(権利ではなく)から逃げることは許されません。
- クラス別の特殊技能:
- 代表的なもののみ挙げます。他に自作してもOKです。
| 「騎兵科」 | 〈騎乗 馬〉〈ランス(馬上)〉〈剣語〉〈暗殺者感知〉 |
| 「歩兵科」 | 〈2H槍&盾〉〈格闘〉〈剣語〉〈暗殺者感知〉 |
| 「情報科」 | 〈耐毒〉〈サーター語会話と読み書き〉〈行間読み書き〉〈記憶術〉〈変装〉
〈鍵罠細工〉 |
| 「医療科」 | 〈薬製作〉〈医療知識(外科)〉〈医療知識(内科)〉〈薬草知識〉〈浄化〉〈呪付〉 |
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| 「魔術兵科」 | 魔道呪文に関して(5×二年次以降の在学日数)時間分の訓練 |
| 〈2H槍&盾〉 | イェルマリオにおける〈両手槍・盾併用〉技能のこと。サンカウンティP.42を参照。 |
| 〈耐毒〉 | ドラゴンアトラスP.63を参照。 |
| 〈行間読み書き〉 | ドラゴンアトラスP.62を参照。 |
キャラクターが以下の役職に就いていると、シナリオ上都合がいいです。
マスターはプレイヤーにそれとなく薦めてください。
- 「B棟総務」
- 生徒用宿舎は三棟あり一年次から順にC棟、B棟、A棟で寝起きしていますが、そのうちのB棟の総務です。二年次の生徒がなります。棟内のもめ事を解決するのが仕事で、早い話が雑用係です。転入して来るラグーナと絡みやすくなります。
- 「寮長」
- 生徒用宿舎は伝統的に寮(dormitory)と呼ばれていますが、その責任者です。三年次の生徒がなります。寮内のまとめ役でもあります。平民出身の生徒がこの職に就くことは不可能ではありませんが、その場合貴族の子弟からの風当たりは強いものになります。ラグーナや特にヒルミー主任との交渉に駆り出されることになるでしょう。
- 「A棟総務」「C棟総務」
- シナリオ中に発生する盗難事件と多少絡みますが、あまり重要ではありません。総務同士で役職上のつながりが得られます。グリーンウッドの雰囲気でやりたい人向けです。
- 「教官」
- ヒルミー主任に対する抑えとなりえます。
- 「マズルカと同じ部屋」
- 困った時には彼女が頼りになります。彼女は二年次なのでB棟の住人であることに注意してください。
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にんじんの修道院風
にんじん120本 牛乳100カップ レーズン120カップ スライスアーモンド60カップ 三温糖(赤砂糖)大さじ40
にんじんの皮をむき、ごく薄く切る。鍋に牛乳、にんじん、レーズン、アーモンドを入れ、砂糖を加える。火にかけ、煮立ったらとろ火で1時間ほど煮る。冬は熱いもの、夏は冷やして召し上がれ。(120人分)
ダニング厨房長の料理メモより
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シナリオは特に重要なシーンを中心に記述しました。PCの行動次第ではここに記述されていない状況に直面することでしょう。その時はキャラクターの個性や目的、人物関係に留意して随時柔軟に対応してください。
「今日の事件」は、シーンとして取り上げるほどではないにせよキャラクターの行動を左右する重要な鍵となる事柄を記述したものです。
- 今日の事件
- 事前情報の説明
マスターはキャラクターたちがどのような状況にあるのか説明してください。情報が多く、苦労すると思いますがうまく都合してください。後の伏線となりうることを以下に列挙します。
- 聖フワーレン士官学校は、ターシュ流民に味方して叛乱に荷担し、討ち死にした地方氏族の館の跡地に建てられたました。B棟一階廊下突き当たりの「開かずの間」と聖堂の地下書庫から地下に通じている脱出路の伏線です。
- 現在は1612年(第7ウェインの41年)火の季・豊穣の週・風の日(25日)です。2週間後に赤の女神の大聖日が迫っています。大聖日の前後三週間(火の季・豊穣の週・神の日から火の季・幻想の週・荒の日まで)は里帰りが許されるため、およそ120日ぶりに家族に会いに行けます。生徒たちは三日後から始まるこの夏休みを皆楽しみにしています。外出禁止令の伏線です。
- 「ジョヴァンニの姪」宛の郵便物が火の季・死の週・神の日(21日)に届きました。消印は風の日(18日)となっています。紐で縛られた中身は、定量記譜法に従って記載された羊皮紙の楽譜です。青地に金で音符が記され、欄外の細密画も美しく、一目で価値のあるものだとわかります。この楽譜が一連の事件の発端です。ジョヴァンニの手により殺害の前日に投函されました。
- マズルカ
- 時と場所:
- キャラクターたちは晩課(日没時)の後の夕食中です。これから終課までは自由時間となっています。生徒用食堂でくつろぐパーティのところにマズルカが食器を乗せたトレイを抱えてやってきます。
- マズルカ:
- 彼女について説明してください。彼女は「ジョヴァンニの姪」もしくは彼女以外の女性PCの親しい友人(場合によりルームメイト)です。平民出身のPCに対しても彼女は気軽に話しかけます。彼女は、こういった士官学校では滅多にない転入生が生徒用宿舎の入り口に来ていたことを告げます。一行が珍しい転入生を見に行こうとするならよし、そうでなければマルコがやって来ます。
- マルコ:
- 彼について説明してください。マルコはヒルミー主任に命令されてB棟総務を呼びに来たのでした。PCにB棟総務がいない場合には、彼が呼びに来たB棟総務はこの場にはいなかったことになります。彼は世にも情けない顔をしてPCたちについて来てくれるよう頼みます。
- アドバイス:
- マズルカの魅力をアピールしてください。もし彼女にちょっかいを出してくる男性PCがいたら、「あんた人参嫌いだったよね。でもしっかり食べないと大きくなれないよ。」などと言いつつ、自分の皿から大きな人参の固まりをそのPCの皿に放り込むとよいでしょう。もちろんこれは軽いおふざけなので、こういったシーンをうまく裁けるPCに振りましょう。
- 転入生
- 時と場所:
- 晩課の直後です。点呼当番の生徒が手に持った鈴を鳴らしながら宿舎を廻っています。日は暮れて、月の明かりがあたりを照らしています。壁にしつらえられたランタンに火がともされます。これ以後は、原則として建物の外に出ることが禁止されています。生徒用宿舎B棟の入り口です。大きな荷物の横に、小柄で可愛らしい女の子が立っています。その前には、ドミトリィ担当主任のヒルミー教官が苦虫を噛み潰したような顔をして立っています。
- ヒルミー教官:
- 彼にまつわる噂を伝えてください。書類ではラグーナの転入は一週間後のはずでした。従って、彼女の部屋の準備など全く出来ていません。彼は無責任にも、「B棟総務」と「寮長」に(いなければそこにいたPCに)彼女の部屋の用意をするよう命令してその場を去ろうとします。PCたちがしつこくくいさがるようであれば、平手打ちがとんできます。
- 転入生:
- ラグーナです。彼女は少し前に馬車で到着したばかりです。その表情が、早く部屋に荷物をおいてゆっくりしたいと語っています。彼女は転入書類が処理される過程で手違いがあったのだろうと主張しています。今のところはその外見にふさわしく、背伸びをしている幼さの抜けきれない女の子といった感じに振る舞います(もちろんこれは演技です。彼女の本質にそのような甘さはありません)。
- 部屋:
- B棟は二階建ての石造建築です。二年次の生徒36人(訓練中の死亡や成績不良による放校処分等で一年次よりも減っています)が、18の部屋に分かれて暮らしています。うち女性は4人(PC含む)で、一階の出入口に一番近いふた部屋を使っています。あいにくと空き部屋は、開かずの間と呼ばれる一階廊下最奥の部屋しかありません。
- 開かずの間:
- 学校設立当時から使われていないようです。生徒たちの間では、密かな怪談話のネタになっています。「耳をすますと扉の奥からこの部屋で首を括った一期生の啜り泣きが聞こえる」、「ある条件の整った夜には、地界の底から死霊がこの部屋にいる者を迎えにくる」といった類のものですが、実際のところ細部の逸話に奇妙な信憑性があります。もちろんPCもこのことは知っています。誰かがラグーナに教えたならば、彼女はこの部屋に入ることを嫌がります。
開かずの間の床には、士官学校の敷地外へ通じる抜け道が隠されています。怪談騒ぎは、この地下道に棲みついたワニと昼夜の気温差による空気の流動によるものです。
- アドバイス:
- ラグーナの使命は、(1) 帝国派の違法行為の証拠を手に入れる (2) 楽譜をミリンズ・クロス公会議にとどける (3) 「ジョヴァンニの姪」を守るの三つです。優先順位もこの順になってます。現在のところ彼女は、PCたちを利用して違法行為の証拠を手に入れようと考えています。彼女自身は、楽譜を届けるべく学校を抜け出したPCたちをフランジパニ家の私兵が捕殺すれば帝国派の責任追及が容易になると考えていますが、同時にそんな手段はなるべく避けたいと無意識のうちに考えています。
ラグーナは、「ジョヴァンニの姪」の容貌を知っています(肖像画がのこされていたからです)。もしこの場に「ジョヴァンニの姪」がいるならば、同室の相手を追い出してでも彼女と同室になることを望みますが、説得されればあきらめます。理由は「この部屋がいいのっ!」「お姉さまとならうまくやっていけると思うの……」等々なんでもよいです。多少わがままに振る舞うと良いでしょう。彼女は自分の転入が不自然であることを承知しています。そのうえで、エントウィスル教頭との騙し合いを演じることになるでしょう。ヒルミー主任では、彼女に対抗することは出来ません。
すったもんだの末に部屋割りが決まれば、このシーンは終わりです。テストプレイでは、体は丈夫だけれども気の弱い男子生徒二人が開かずの間に放り込まれることになりました。
- 今日の事件
- ラグーナが午後の教練を具合が悪いと言って休みます。彼女と同じクラスのPCはこのことに気がつくかもしれません。彼女は午後に「ジョヴァンニの姪」の部屋に忍び込んで楽譜を探すのですが、その伏線です。
- 午前(三時課から六時課まで)の「騎兵科」の教練の終了間際、イヤミールに「明日早朝聖堂の裏まで来るように」とヒルミー主任がささやきます。「騎兵科」のPCは〈聞き耳〉ロールに成功すればこの発言を聞き取れます。
- 地下書庫
- 時と場所:
- 讃課(夜明け)を告げる鐘が鳴ります。起床の時間です。「ジョヴァンニの姪」の部屋にマルコがやってきて、聖堂の司祭様が呼んでいることを告げます。彼女が聖堂に顔を出すと、「明日の典礼式に使う楽譜が見あたらない。もしかしたら他の誰かが聖堂附属の地下書庫にしまったのかもしれないから、探してきてくれないか」と頼まれます。もし他のPCがついてきていれば彼(もしくは彼女)にも手伝ってくれるよう頼みます。他の生徒たちは身支度を整えてから、三々五々聖堂に向かいます。
- 聖堂の司祭:
- 典礼式聖歌隊の指導者です。善良ではありますが、小心な人物です。彼なりに生徒たちを愛していますが、いざという時教頭のエントウィッスルに楯突くほどの気概はありません。ジョヴァンニから贈られてきた楽譜との関係でシナリオに絡むこともあるでしょう。
- 書庫:
- 七母神のカルト関係の書類や書籍が保管されています。一般生徒の立ち入りは禁止されています。楽譜は美しい細密画が施された羊皮紙です。しかし、探してみても目当ての楽譜は見つかりません(司祭の頼みを引き受けた場合の話です)。そのうち突然書庫の扉が閉められ、鍵を掛けられてしまいます。あたりは完全な闇に閉ざされ、手探りで動きまわるのがやっとです。分厚い石壁は外に音を漏らしません。
- アドバイス:
- 犯人はイヤミールです。彼は自分が独唱者(ソリスト)に選ばれなかったことを逆恨みしたのでした。
「ジョヴァンニの姪」がPCであればこのようなイベントは蛇足かもしれません。場の雰囲気をみて判断してください。基本的に、典礼式の説明をして聖歌の存在(さらにはディーゾーラ・カルトとの関係)にプレイヤーの注意を向けさせることが出来ればこのシーンはOKです。
ただ、技能ロール次第では、この地下書庫からいずこかへのびている秘密の通路の存在に気がつくPCもいるでしょう。地下通路は本棚の後ろに巧妙に隠され、さらに頑丈な鍵が掛けられています。
彼女がNPCである場合には、このシーンでプレイヤーの保護欲を掻き立てるチャンスです。イヤミールとその取り巻きであるヒリスとマルテイが、地下書庫へ通じる階段を笑いながら上ってくるところにPC一行が偶然通りかかったことにしてしまうなど、きっかけは自作してください。心細さに震えていた彼女は、助けてくれたPCに好意をもつでしょう。そのかわり、PCという保護者のついた彼女に対してヒルミーの陰湿な言動は激化することになります。どろどろした関係は好きじゃないという方は、実は好きだから苛めていたという学園ラブコメ路線(笑)でいきましょう。
- ジョヴァンニの死
- 時と場所:
- 夕食の後。マルコが郵便物を各部屋に配っています。「ジョヴァンニの姪」宛に届いた郵便の差出人は、オルハンス家の法律顧問官パドローネとなっています。消印は三日前で、至急便を示す蜜蝋が捺されています。差出人の名に心当たりはありません。
- 法律顧問官:
- 第14代ターシュ王ファージェンテスの御代に定められた「市民法典」に従い、法律問題を処理する専門家です。現代でいうところの弁護士にあたります。かかる私法のみならず、公法もいくらか定められてはいますが、父祖の遺風(モーレース・マイヨールム、つまりは先祖伝来のしきたり)が規範として格上に扱われるため、統一的な成文憲法は存在しません。
- パドローネの手紙:
- ファーゼストからの郵便は、通常エティーリーズの通商網に沿ってダンストップ経由でこの地に届きます。この手紙には、火の季・死の週・火の日(19日、今から七日前です)にジョヴァンニの舘が火事で全焼し、彼も火に巻かれて亡くなったこと。彼はオルハンス家に多額の負債があり、土地や焼け残った家具類を含めた彼の遺産を相続すれば、負債もあわせて承継されること。遺産から借金を支払ってもなお5000ルナーの負債が残ること。相続放棄すれば、遺産についての一切の権利を失うが、そのかわり借金を背負わなくてもすむこと。火の季・静穏の週・火の日(33日)までにパドローネの事務所に出頭しない場合は、相続を放棄したものとみなされること。ジョヴァンニの葬儀は火の季・静穏の週・凍の日(29日、今から三日後です)に行われること、が記されています。
貴族階級の出身者は法律顧問官について多少知っているでしょう。手紙の内容にも、特に不審な点はありません。もっとも、勘の鋭い人物ならば(要INTチェック)この手紙の内容は親切すぎる(そのままなにもしなければ借金がなくなってしまうあたりが特に)と不審に思うでしょう。もしPCの中に法律に詳しいキャラクターがいるならば、相続放棄をした場合過去一年以内にジョヴァンニから贈与された品物についての法的な権利は、請求があればオルハンス家に移ることに気がつくでしょう。法律関係に詳しい教官に質問した場合にも同様の情報が手に入ります。
- アドバイス:
- この手紙を見てPCたちはどう行動するでしょうか。出来るだけ協力し合うよう、マルコやマズルカを使って上手く誘導してください。
楽譜についての所有権の移転云々といった法律問題は蛇足なので、ジョヴァンニの死と葬儀の日程さえプレイヤーに伝われば十分です。なお、日本の民法にこのような法律上の規定はありません(早い話が作者のでっちあげです)。この手紙は、もしも「ジョヴァンニの姪」が楽譜をミリンズ・クロス公会議まで届けるようなことがあったとしても、オルハンス家の名で所有権を主張して横槍を入れるために帝国派がうった布石です。しかし、このことが実際のところシナリオ上で問題となることはないでしょう。もし問題になったなるような状況になれば、ファザールが助けてくれるはずです。
手紙を読んでなにもしなければ、そのまま翌朝になります。もし、「ジョヴァンニの姪」が葬式に出席しようとするならば、ドミトリィ担当主任のヒルミー教官の許可を得なくてはなりません。ヒルミー教官との交渉は、彼の個性を印象づけるポイントとなりますので、マスターはキャラクター全員が揃うよう配慮してください。
- ヒルミー教官
- 時と場所:
- 終課の直前。教官用宿舎の廊下は薄暗く、人通りはあまりありません。ヒルミー教官は自分の部屋にいます。このような場合、もし付き添いがいたとしても、外出届を提出する「ジョヴァンニの姪」以外のキャラクターは部屋の外で待っているのが普通です。もちろんそれまでのシナリオの展開にもよります。
- 外出届:
- ヒルミーは「ジョヴァンニの姪」が校外へ出ることを許可しません。葬儀への出席という理由を聞いても、「両親の葬儀ならともかく叔父ではダメだ。」など言い逃れます。それでも食い下がるようならば、突然激昂して彼女を殴り倒します。「誰に向かって口をきいているつもりだ、この雌豚がっ!」等、聞くに耐えない暴言を吐き散らしながら、倒れた彼女の腹部に蹴りを入れ、髪をつかんで引きずり起こしてからもう一度殴ろうとします。
- アドバイス:
- マスターはプレイヤーの反応を見ながらどこまでやるか決めてください。プレイヤーの反骨精神をあおることが出来ればとりあえずの目的は達成されます。やりすぎには注意しましょう。他のPCが止めに入った場合、ヒルミー教官は指導の一環だと、とぼけます。
このようなヒルミー教官の行動は、エントウィスル教頭の指示を受けているからです。マスターはさりげなくほのめかすと良いでしょう。エントウィッスルは「ジョヴァンニの姪」が楽譜を持っている旨の連絡を既に受けています。そこで学校の外へ楽譜が持ち出されることがないよう、処置しました。出入りの御用商人が生徒から頼まれてよけいな荷物(楽譜のことです)を持ち出さないようフランジパニ家経由で圧力をかけ、さらに校外に出される郵便物を検閲しています。当然「ジョヴァンニの姪」本人の外出など許可できるわけがありません。たとえ彼女がなんら事情を知らないにしても、です。ところが、ラグーナの転入で状況は多少変わってきました。エントウィッスルは彼女を疑っています。そこで、より直接的に楽譜を手に入れることにしたのです……。
さて、ここまでで楽譜の存在こそが全ての発端であることを看破できるプレイヤーは希でしょう。プレイヤーが「ヒルミーと火花を散らす」とか、「ラグーナに言い寄る」等々の行動に熱意を見せればともかく、そうでない場合にはマスターは展開を早めてください。確たる方針や目的のないロールプレイではせっかくの緊張感も弛み易いものです。
- 今日の事件
- 讃課の前。東の空に陽の天蓋がひろがり始める頃、まだ薄暗い聖堂の裏庭でイヤミールとヒルミー教官が内緒話をしています。会話の内容を聞き取ろうと接近すれば、ヒルミー教官が気がつきます。見られていたことに気がつくと、教官はあわててごまかそうとします。
- 開かずの間に入れられた生徒がB棟総務と寮長に苦情を漏らします。夜になるとどこからともなくなま暖かい風が吹き、亡者のうなり声のような音がして眠れないというのです。開かずの間の寝台の下を調べれば、地下への通路が見つかります。
- 典礼式
- 時と場所:
- 讃課のあと。今日は典礼式の行われる日です。東の空は薄紫から茜色へと変化していきます。聖堂への途中にある練兵場では水蒸気の薄い陽炎が立ち上っています。聖堂の内部は薄暗く、大きな三脚台の燈火に照らされた生徒たちの影が、床の上で揺れています。そのうちに典礼式が始まります。
「ジョヴァンニの姪」が典礼式でソロ・パートを唱えるか否かは昨日の状況(精神状態等)により異なるでしょう。儀式最後にさしかかると、教頭のエントウィッスルが進み出て聖堂の銀聖杯が盗まれたことを告げ、生徒に罪の告白を求めます。誰も進み出る者がいないのを確認すると、今度は疑わしい友人を告発するよう求めます。「友人が罪を犯したならば、君たちは如何にすべきか。」
- 告発:
- エントウィッスル教頭の問いかけに応えてイヤミールが壇上に進み出ます。教頭の問いかけに応える声は緊張のために上擦っています。「私は神と帝国のためにここに告発します(こういった問いに対する定型句です)」
イヤミールは昨日の六時課過ぎに「ジョヴァンニの姪」が誰もいない聖堂から、逃げるように出てきたのを見たと証言します。思わぬ告発に聖堂内は騒然となります。
- 罠:
- PCたちの誰も反駁しないならば、彼女の部屋を捜索することになります。反駁の声が挙がっても、「ならば真実を明らかにしましょう」とエントウィッスルが発言し、結局は捜索することになります。そして、寝台の下からは果たして盗まれた銀聖杯が見つかってしまうのです。動機は叔父の借金ということに落ちつきます。
彼女の処分は日を改めて詮議されることになりますが、一方でその場で連帯責任として生徒全員に対する一週間の外出禁止令(火の季・静穏の週・荒の日(34日)まで)が言い渡されます。午前中に行われるはずであった校外での騎兵演習も中止されます。明日からは(本来ならば)生徒たちがみな帰郷する夏休みが始まるため、今日の教練は午前中で終了します。
- アドバイス:
- もちろんこの一件はでっち上げです。エントウィッスル教頭は彼女を合法的に拘束する口実をこれで手に入れました。さらに、部屋を捜索する課程で楽譜を手に入れようとしています。もしPCたちが楽譜を彼女の部屋に置いたままにしているのならば、ヒルミー教官が部屋を捜索した後、楽譜が無くなっていることに気がつきます。しかしその場合は、教官たちの裏をかいてラグーナが一足先に楽譜を入手しています。PCが調査を開始すれば、昨日の午後、ラグーナが彼女の部屋から出てきたのを見たという目撃証言が得られます。この証言により、ラグーナはヒルミーの一派であり、聖杯を部屋に持ち込んで今回の事件を演出した張本人ではないかと疑うPCがいるかもしれません。
外出禁止令は、火の季・静穏の週・神の日(35日)に開催されるミリンズ・クロス公会議まで生徒を校外に出さないようにするためです。士官学校の夏休み(赤の女神の大聖日の前後三週間)は生徒の帰郷が許されますが、この禁止令により荒の日までは校外に出ることが禁じられます。禁止令は荒の日までなので翌日のミリンズ・クロス公会議開催まで数時間の余裕がありますが、(なにか魔術的な手段があればともかく)騎馬ではいかにとばしてもそれだけの時間で楽譜をとどけることは不可能です。
今日の午後からは教練はありません。生徒は全員寮内、生徒食堂、教官用宿舎、聖堂などで様々なことをしています。とばっちりで(多くの生徒はこう考えるでしょう)帰郷が一週間も延期された生徒たちのなかには、「ジョヴァンニの姪」を中心とするPCたちに冷たい視線を向ける者も出てくるでしょう。
この後は、キャラクターの行動次第で様々な事情が見えてきます。逆に言えば行動しなければなにもわからないままでいるでしょう。このシナリオの敵役は強大です。ですが、それに怖じ気付き、尻尾を巻くようではこのシナリオを楽しむことは出来ません。マスターは要所要所でプレイヤーに救いの手を差し伸べてください。そのために、聖堂の司祭やクスマウル校長、マズルカがいるのですから。彼らは事件を解決してくれるわけではありません。ですが、言葉や態度でPCを慰め、励まし、彼らなりの方法で支えてくれるはずです。
- イヤミール:
- 彼は狭量で小心者で精神的には子どもです。PCの追求を受けると必死でとぼけようとするでしょう。ですがそこに確信犯になりきれない甘さがあります。彼は神の御前で嘘をついたことを恐れています。さらに自分が卑怯な手段で人を(しかも女性を!)陥れたことを内心では嫌悪しています。しかしその一方で教官、特に赤の女神の入信者であるエントウィッスル教頭の指示に逆らうことなど、彼にとっては考えられないことなのです。PCの真摯な説得、あるいはクスマウル校長の癒し(校長は彼を懐に抱きしめ、優しく背中をたたくでしょう)によって彼は心を開きます。
イヤミールはこの盗難事件が狂言だったことを証言することを約束します。かれは、本当の黒幕はエントウィッスル教頭で、ヒルミー主任はその指示通り動いているだけであること。フランジパニ家(イヤミールの実家です)と教頭が裏で手を結んでなにか企んでいることを(もしPCが無断で校外に脱出した場合にこれを捕殺するための盗賊団にみせかけた私兵を用意しているのです)知っています。
- エントウィッスル:
- 彼はシファー司教の考え方の忠実な代弁者です。極言すれば、カルトの上司の意見が自分の意見だと心得ています。より神の側近く仕えているシファー司教が、間違いを犯すはずは無いからです。彼に悪事を働いているという認識はありません。「ジョヴァンニの姪」を陥れるのも、それが必要と考えたから実行したまでです。彼はヒルミー教官が追いつめられるまで、多忙を理由にPCたちと会おうとはしません。彼は楽譜を手に入れていないので、PCたちに楽譜を渡すよう要求します。
彼に闘いを挑むのは得策ではありません。マスターは彼が「赤の女神の入信者」であることをPCに思い出させてください。いったん闘いになれば彼は容赦しませんが、不必要に無駄な殺生はしません。PCが逃げるならばそのまま放置するでしょう。
彼は一連の事件の裏の事情全てに通じていますが、PCが突っ込んでこない限り、自分から何か明らかにするようなことはしません。彼は常に冷静です。もしPCが知りすぎていると感じたら、かれは巧妙にPCたちが校外に脱出するよう誘導します。退学をほのめかしたり、将来の人事にカルトからの介入があるので君たちは絶対に出世できないと告げたり、挑発したりと方法は状況により様々です。そしてフランジパニ家の私兵を用いて、PCたちを捕殺するつもりです。
- クスマウル:
- 彼女は表だっては何もせず、事態を静観しています。ですが、PCが疲れた様子でいるときには、学校の庭でお茶に誘います。彼女と一緒にお茶を飲んでいた庭師から、「銀聖杯が盗まれたとされる時間にはちょうど聖堂の前で庭木の手入れをしとったが、誰も礼拝室から出てこんかったけんどなあ。」という証言がとれます。
また、もしPCが転校を望むのならば、書類一式を整えてくれます。これにより、聖フワーレン士官学校の生徒でなくなったPCがどこへ行こうとも自由です。
彼女は帝国派の目的を知っていますが、PCに直接それを語ることはありません。彼女自身もディーゾーラの女祭としての立場があるからです。「帝国派と開明派、いったいどちらが正しいかなど、どうして神ならぬ私に判断できましょう。」
- 聖堂の司祭:
- 彼は銀聖杯をめぐる一件については何も知りません。エントウィッスルは彼の性格をみて、この計画から排除したのでした。彼は「ジョヴァンニの姪」が銀聖杯を盗んだとされている一連の経過に不審を感じていますが、教頭が仕組んだこととは知りません。はじめ、PCたちには硬い態度で臨みますが、説得されれば全面的な協力を約束します。といっても彼の性格では、教頭の意向に公然と逆らうようなことは出来ません。
彼はフランドル学派が今度の公会議で異端審問にかけられることを知っています。さらになぜフランドル学派が異端審問の対象になったのかを教えてくれます。彼はジョヴァンニが審問用の作曲を任されたことは知りません。
PCが臨むならば、かれは(薄々事情を感じとりながらも)聖堂の地下書庫の楽譜を貸し出してくれます。楽譜に細工して、帝国派に偽の楽譜を渡すことも出来るでしょう。この時代、細密画の施された楽譜は非常に貴重で、それだけで一財産となるほどです。かれは憶病ですが、生徒たちのことを大切に思っているのです。
- ヒルミー:
- 彼はエントウィッスル教頭の指示に忠実に従います。ことが成就した暁には、イェルムの侍祭に推薦することを約束されているからです。PCや校長の説得などには全く耳を貸さず、冷笑するのみです。さらにはこれ以上深入りするようならばPCを退学処分にしてやると息巻くでしょう。彼はしばしば教頭の部屋に足を運びます。部屋の扉に張り付いて〈聞き耳〉をたてれば、「侍祭への推薦の件は……」と教頭に確認する彼の声を聞けるでしょう。
追いつめられると、彼は教頭に助けを求めます。というよりも、そのような状況になった場合、偶然を装ってその場に教頭がやってきます。
- マズルカ:
- 彼女はPCたちが無実であることを無条件で信じてくれます。そして、PCのために寮内を駆け回って情報を集めてくれることでしょう。PCが行き詰まっているときには、庭師やイヤミールのイベントへ導いてくれるはずです。他にも、PCたちに非協力的な寮生たちを叱りつけたり、「ジョヴァンニの姪」を励ましたり、PCたちの前でためらうキーパーソンの背中を押す短いが有意義な発言をしたり、と様々なことで力になってくれます。
- ラグーナ:
- 彼女が楽譜を持っている場合、エントウィッスル教頭とPCたちが対立したすぐ後の深夜に現れて楽譜を渡します。楽譜を持っていない場合もやはり現れます。それから、まだPCたちがよく理解できていないようならば、彼らが直面している状況を簡単に説明してくれます。そして、聖堂の地下書庫か開かずの間から地下通路を通って校外に出られることを告げます。
ここで、いままでPCたちが彼女に好感を持たれるようなアプローチをしていた場合、彼女は聖フワーレン士官学校の生徒であることを示す校章に、魔道呪文で追跡できるよう呪付がなされていることを告げます(元々は野外教練中に行方不明となった生徒を捜索するためのものでした)。そして、エントウィッスル教頭はその校章の反応を頼りにPCを捕殺するつもりであること、その現場を押さえるべく待機している部隊があることを告げます。これは、折角の証人がフランジパニ家の私兵に突撃して死なれては困るのと、PCの行動を自己の予測可能な範囲に捉えるためです。……と、本人は考えていますが、本当はPCたちが死傷しないようにとの彼女の無意識の思いやりの現れです。
彼女は自分の正体については何も語りません。
彼女はPCたちと一緒に地下通路の入り口まで行くと、可愛らしく笑って扉を閉めます。事情を聞いていないPCたちには、悪魔の微笑に見えるかもしれません。その後彼女は生徒用宿舎の屋上に上がり、ランタンの灯で合図を送ります。
- ホラティオ・ホスティリウス
PC一行がいかなる経路をたどってミリンズ・クロス公会議に臨むかは様々考えられますが、ここではファーゼストに向かった場合を取り上げます。それ以外の場合は、マスターが上手く都合してください。
ファーゼストに向かえば“詩人”オンジュールの屋敷で手厚くもてなされます。また、そこにホラティオ・ホスティリウスが訪ねてきて、ラグーナの父親だと自己紹介します。PCはホラティオがファザールの親衛隊長で現在は野に下っていることを知っているかもしれません。PCの追及があれば、ホスティリウスは悪びれることなく一連の事件の真相を(ラグーナの正体や彼女の果たした役割を含めて)語ります。そして、ファザール閣下復権のためにシファー司教を脅迫する良いネタが出来た、とPCたちに大真面目に礼を述べます。PCが臨むのならば、ホラティオはファザール親衛隊への入隊を取りなしてくれます。また、今後の進路についても出来るだけのことはすると約束します。
- ジョヴァンニ
「ジョヴァンニの姪」については特別のイベントがあります。マスターは以下の文章を読み聞かせてください。
オンジュール曰く:
今回の一件で君はいろいろと辛い思いをしただろう。でもどうか彼を、ジョヴァンニを恨まないでやってくれないか。
もう10年以上前のことになるだろうか……その日、彼は酷く酔っていた。酔いつぶれながら泣いていたよ。その時ぼくは、泥酔した彼の口から姉夫婦が事故死したことを聞いた。そして……彼が他の何よりも誰よりも彼の姉さんを愛していたことを知ったんだ。
引き取られて来た君を見て、ジョヴァンニは何か思うところがあったらしい。あまり自分のことは言わない男だったが、「ぼくがおとうさんにならないとね。あの子の家族になれるのはぼくだけなんだから……」とそれだけは普段から口癖の様に言っていたよ。
でも……成長するきみは驚くほど彼の姉に似てきていた。ジョヴァンニの女癖が悪くなったのはそれからだよ。まるで追い立てられるように次々に違う女に手を出して……
君が出て行ってからはまるで何かにとりつかれたように作曲活動に打ち込んでいた。それもいささか度が過ぎるほどに。オルハンス家から多額の借金を背負い込み、その金であやしげな薬物に手を出した。本人は過去からの呟きに耳を傾けるためだと言っていたがね……いくら言ってもやめようとしなかった。実際彼の体は不規則な生活と薬物の副作用でぼろぼろだったよ。
そうまでして彼が完成させたのがあの楽譜だよ。ぼくが詩をつけたことになってるけど、それも本当は彼が書いたんだ。ぼくはちょっと手伝っただけ。
ねえ……きみはこの曲に込められた想いがわかるかい? いや、きっと君にしかわからないだろう。この曲は君のためにかかれたんだから。
彼女が自分に何が出来るのか、どうしろと言うのか、といった問いを返すとオンジュールは公会議で唱うよう薦めます。既に歌い手は決まっているが、君が望むのならば独唱部(ソロパート)をまかせる用意がある、と。
さらに彼女がファーゼストにいる篤志家から貰っていると思っていた奨学金は、実はジョヴァンニが出していたのだと、告げます。彼女が楽しみにしていたあたたかい励ましの手紙も全て、彼が書いていたのだと。
彼女が公会議で歌うことを望まないならば、このシナリオはここで終わりです。
蛇足ながら、兄弟姉妹間の婚姻は法律で禁止されていますが、3親等以内の親族間の婚姻は許されることにしています。
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魚のトマト詰め
魚の切り身7.5キログラム パン150枚
卵30個 大きなトマト120個 牛乳15カップ
ドライパセリ バジルまたはデイル
塩 こしょう ナツメッグ
魚の切り身は細かくきざむ。パンはさいの目に切って、牛乳に浸す(牛 乳の量はパンの水気によって決める)。卵は軽くほぐし、パンに加え、魚 とスパイス類と、塩を加えてまぜ合わせる。トマトのへたの部分を切り落とし、中身をくりぬく。この中に、さきにまぜておいたものを詰める。油を塗った焼き型に並べ、180度に熱しておいたオーブンで45分間焼く。こ れは、残りものの魚の利用法に最適。その場合は焼く時間が短くなる(約 30分)。
(120人分)
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- 時と場所:
- 火の季・静穏の週・神の日。ミリンズ・クロス大聖堂の一郭にある小礼拝室にて、夜明けと同時に会議は始まります。予め定められた形式により、クラウディア・シファー審問官からファーゼスト芸術家協会議長のオルハンス卿に対する審問があり、その後詩曲の奏上が認められます。
評決に参加する審問官は七人。属領地総督のアッピウス・ルクシウス、ルナー帝国の宗教組織の長である帝都グラマーの大法官、属領地軍司令官(現在はファザールではありません)、などそうそうたるメンバーが席に着いています。審問招集者のクラウディア司教は評決からはずれていますが、そのかわり妙齢の黒髪の女性が席に着いています。さらに礼拝室の後方には傍聴人用の座席がつしらえられており、100人あまりの聖職者、貴族、武官、が座っています。なぜか、PCたちも席に着くことが出来ました。ホラティオは、ある人に頼んでみたら何とかなったのでね、といって苦笑します。
- グラマーの雅歌:
- カウンターテノールを用いた4声のモテットです。男女の性愛を瑞々しくも官能的に歌い上げていくすべての声部が、美しい旋律に基づいてポリフォニックに展開していきます。そして親しみやすい旋律の中に表現される安らかな祈りの言葉……。しかし次第に礼拝室の中にはざわめきが広がります。この歌は神と人との交歓を唱っているからです。それは神の擬人化、神格の聖性を世俗のレベルにまで引き下ろす試みに違いありません。「ジョヴァンニの姪」が進み出る頃にはそれは無視できない程になりつつあります。ただ一人、黒髪の女性だけは面白そうに微笑んでいます。
- 祝福:
- プレイヤーは〈歌唱〉ロールをしてください。ジョヴァンニのことについて、何らかの形で気持ちの決着を付けることを表明するならば、〈歌唱〉の技能値は倍になります。ロールに成功すれば、ほたる火のような赤い光が幾つも幾つも現れます。それは歌い手の回りを緩やかに舞いながら、その光を強めていきます。INT×3 ロールに成功すれば、この赤い光こそルナーエレメンタルであり、教会の守護精霊が祝福しているのだと直感します。エレメンタルは絶対に歌い手を傷つけません。
- 評決:
- 〈歌唱〉ロールが成功すれば、満場一致で異端ではないとの評決が下ります。以後、この歌は「グラマーの雅歌」と名付けられ、神殿の礼拝儀式の前に必ず唱われるようになっていきます。ジョヴァンニには、属領地政府総督直々に10000ルナーが下賜され、さらに爵位も与えられます。もちろんジョヴァンニは亡くなっているので受け取るのは彼の姪です。彼女が望むなら、ミリンズ・クロス大聖堂の聖歌隊員として迎えられます。
失敗した場合には、黒髪の女性とアッピウス・ルクシウスをのぞいた五人が、異端であるとの評決を下します。しかし、たとえ異端とされても、この歌は民間信仰として庶民の間に広まっていきます。
議場を出ると、黒髪の女性がホラティオのもとに近づいてきます。そして何か囁いているようです。〈聞き耳〉をたてれば、かろうじて「聖王国での工作を急ぐよう、母上の……」とだけ聞き取れます。女性はそのまま回廊の奥へ消えていきます。
最後にPCたちの身の振り方を決めてください。それでこのシナリオは終わりです。お疲れさまでした。
- 時代背景:
- ルナー帝国の支援を受け、帝国の支配に抵抗するターシュ流民たちの頭目“長柄の斧の”パラシーを討って内乱を終結させたファージェンテスは、1555年にターシュの玉座につきました(在位1555〜1579)。彼は積極的にルナー文化の導入を図り、内陸深くまで道路を建設し、ファーゼストを拡張し、城壁を強化しました。さらに各地に寺院を築き、軍制を整え、芸術を振興します。彼は彫刻家カシドールとイネルダスのパトロンであり、ファーゼスト演劇再演会のパトロンでもありました。
ファージェンテスの息子モイラデスはターシュ第15代の王(在位1579〜1610)です。彼はターシュ流民およびその同盟者(サーターとグレイズランドの援軍)を打ち破り、流民たちはケロ・フィン山と寺院の周辺の狭い土地に押し込められました。さらに1602年には、サーターの首都ボールドホームを陥落させ、サリナーグ王を討ち取りました。また、彼は属州大学を創立し、出身地差別撤廃に努めたことで有名です。
モイラデスの息子ファランドロスはターシュ第16代の王(在位1610〜1630)です。彼はシリーラとグラマーで教育を受け、まさに帝国風の生き方を身につけていました。1613年、彼は陰謀によって職を追われていたターシュ人ファザールを属領地軍将軍職に復帰させ、「スターブロウの反乱」の鎮圧にあたらせます。「スターブロウの反乱」が鎮圧されると、サーター王国は決定的な崩壊を起こし、ルナー的な生活様式にも慣れていたサーターの北方地域はターシュ王国に併合されることを望むのでした。この功績により属領地軍司令官(鎮圧当時は将軍職であった)に昇格したファザールはさらに聖王国に侵攻します。そして1621年には、彼は聖王国の東部地方であるハートランド、サーター、プラックスの支配権を握ることになります。
- (*1)
ファーゼスト現地軍団附属神学校:
- 属領地の四王国は属領地軍に兵士を提供する義務を有しており、ルナーの将校たちが彼らを訓練し統率します。ターシュでは、それらは「ゴールドエッジ連隊」「スレイブウォール連隊」というように出身地によって区別され、これらの連隊が寄り集まってファーゼスト現地軍団を構成しています。しかし、現地軍団には以上の各地域別の連隊のほかに「精鋭騎兵団」「第二ファーゼスト騎兵団」「第三ファーゼスト騎兵団」「第一ファーゼスト歩兵団」「第二ファーゼスト歩兵団」等が存在します(現地軍団の構成について確認されたい方はボードゲーム、ドラゴン・パスをご覧ください)。
そして、ルナー帝国から派遣された軍人ではなく、オリンドリ氏族出身のターシュ人ファザールが属領地軍(ファーゼスト現地軍団はルナー帝国属領地軍の一部です。混同しないよう注意してください)の将軍職に就いていたように、ファーゼスト現地軍団の指揮官や士官たちはターシュ人が務めていたと思われます。そこで、現地軍団の中核をなす連隊の士官を養成するための学校としてファーゼスト現地軍団附属神学校を今回設定しました。聖フワーレン士官学校はこのような神学校のうちのひとつです。
かかる軍団附属の神学校の創立を命じたのはモイラデス王です。かれは父王ファージェンテスが導入した帝国式の軍隊組織を受け継ぎ、ターシュに根付かせようとしたのでした。この試みは、のちにファージェンティテスという軍閥を生じ、英雄戦争直前にして司令官を罷免されたファザールを中心と仰ぐファザール派との間で王国を二分する対立をもたらすことになるでしょう。
- (*2)
聖フワーレン士官学校:
- 「時」の始まり以来、ヒドラたちが棲んでいる恐ろしくも峻厳なヒドラ山脈を西方に臨む丘の上に聖フワーレン士官学校はあります。この士官学校は、ターシュ流民の頭目“長柄の斧の”パラシーの陣営に参画し、ファージェンテスによって鎮圧された氏族の長の、焼け落ちた館の跡地に築造されました。
ルナー帝国風の建築様式による石造りの高い壁には、一般の出入りに用いる大門と、御用商人や下人たちが利用する通用門が設けられています。大門の警備は現地で徴用された一般民兵が交代で行っています。敷地内には、教官用宿舎、生徒用宿舎、練兵場、生徒用食堂、厨房、倉庫、武器庫、馬小舎、鍛冶工房、施療院、七母神の聖堂などが置かれています。建物の入り口や窓、天井の梁などには優雅な彫刻が施されており、石材もきれいにカットされています。特に七母神を奉った聖堂の丸天井には、鮮やかな筆致で月の女神を中心に七人の人物像が描かれ、祈りを捧げる生徒たちの慰めとなっています(保守的な司祭たちはこのような絵画を俗人の文学であるとして否定的に捉えています)。より具体的なイメージを持ちたい方はドラゴン・アトラスに記述されているルナー軍の兵営(P.18〜19)をご覧ください。
士官学校の校長には伝統的にターシュ人が就任します。現在の校長はディーゾーラの女祭であるクスマウルという老婦人です。教官たちの代表である教頭には帝国本土から派遣されてきた人物がなります。現在は赤の女神の入信者であるエントウィッスルがその任についています。伝統的に校長は名誉職であり、学校運営の実権は教頭が握っています。
生徒は一学年あたり40名程度で、三学年構成になっています。いくつかのクラスがあり、クラスごとに教授されるカルト技能は異なりますが、そのカルトに入信していることが所属の絶対条件ではありません。クラスには「騎兵科」「歩兵科」「情報科」「医療科」そして最近になって実験的に新設された「魔術兵科」があります。
入学試験は、各都市に設置された徴兵官事務所で所定の金額を支払い、申し込むことで受験できます。ルナー帝国の自由主義の恩恵なのか、受験資格に身分上の制約はありません。もっとも有力貴族や氏族の子弟たちについては特別に、推薦状による無試験入学枠が認められているため、受験するのは貧しい没落貴族や平民の子弟が多いようです。そのため学校内で、特権意識を持った一部の貴族の子弟と平民出身者との間に対立関係が生じています。受験資格には年齢制限があり、成人儀式を通過して三年を経過した者は受験できません。
「騎兵科」の生徒のほとんどはヤーナファル・ターニルズの入信者です。「歩兵科」の生徒にはグラニット・ファランクスの入信者も多く見られます。彼らはこの兵学校を卒業した後、騎兵や歩兵として「ファーゼスト騎兵団」や「ファーゼスト歩兵団」に赴任します。まずは騎兵ならば百騎隊の「百騎長」、歩兵ならば百人隊の「百人長」となることが一般的なようです。その後、優秀であることを証明した卒業生は「精鋭騎兵団」に所属することになります。ごく希にきわめて優秀な成績を修めた生徒は上級課程として「帝国近衛隊」におくられます。
「情報科」はダンファイブ・ザーロンの入信者が殆どですが、まれにディー・ゾーラの入信者も存在します。卒業生は属領地政府の情報部門に赴任します。卒業生には、ターシュ王国という枠を超えて属領地全体のために行動することが求められるため、ターシュ人の教官は注意深く排除されています。教官はすべて帝国本土から派遣されてきます。ディーゾーラの入信者のうち優秀なものは学期の途中でいずこかへ移され、そこで特別な訓練を受けるようです。
「医療科」はティーロ・ノーリの入信者とディーゾーラの入信者が大体半数ずつをしめています。他のクラスと異なり、この科だけはほぼ全員が女性です。病の治癒や呪いの除去といったことを教わります。卒業後の進路は他のクラスと異なり、都市の救貧院に赴任して指導的な地位についたり、「騎兵科」の生徒と結婚したり、侍祭としてカルトに戻るなど様々です。
「魔術兵科」の生徒の信仰する神は様々です。ただし、聖マルキオンは赤の女神の顕現であると認めることが必要とされます。「魔術兵科」の教官は1万人の魔術師の都から派遣されています。
聖フワーレン士官学校では、全学年合わせて「騎兵科」が約40人、「歩兵科」が約30人、「情報科」が約30人、「医療科」が約15人といった構成になっています。「魔術兵科」はわずかに数人しかいません。
聖フワーレン士官学校の入学式は嵐の季・調和の週・荒の日に行われます。入学後はすぐに教練が始まります。生徒たちが帰郷を許されるの年に一度だけ、赤の女神の大聖日の前後三週間です。ほかには、七母神の大聖日の後の3日間、学校を出ての自由行動が許されます。これ以外に無断で学校を離れる者には厳しい処分が科されます。ただし、特別な事情があれば外出を許可されることもあります。
- (*3)
典礼式:
- 典礼式は各週の荒の日の早朝に行われる七母神の礼拝儀式です。グローラインの完成した現在では、荒の日に限らず赤の女神は常に満月の状態にありますが、ミリンズ・クロスで定められた伝統的な「聖務日課 horarium」に従い、満ちたる月の恵みへの喜びと感謝を表すこの礼拝儀式は荒の日に行われます。
典礼式は夜が明ける刻限に合わせて行われます。神学校の一日は、讃課、一時課、三時課、六時課、九時課、晩課、終課という「神の業」の時課の「七つの聖なる数」に基づいて区分されていますが、このうちの讃歌から一時課までが典礼式にあてられます。典礼式のない日は私的な礼拝の時間とされています。(イェルム神の気まぐれか、昼夜の長さの季節的な変化ゆえに時課を現代の時間に換算することは困難ですが、大体の目安としては、讃課は夜が明ける刻限、一時課はそのおよそ一時間後、三時課は午前九時頃、六時課は正午、九時課は午後三時頃、晩課は日没時、終課は晩課の一時間後にあたります。)
典礼式はまず聖歌隊によるディーゾーラ・カルトの聖典「詩篇」の唱和から始まります。その後英雄譚が朗読され、当日祝われる全ての聖人を記念します。それから校長による短い「朝の祈り」があり、司会をする教頭によりカルト教義の解説ないし適用(個人の祈りや償いや祈願の効力の充当、すなわち信者から捧げられるMPの仲介)がなされます。この時同時に、神学校の校則や規則についての違反を自ら告白するように指導されます。沈黙しがちな場合には、他の生徒が疑わしい友人を告発することが許可されます。典礼式は聖歌隊による詩編129「深き淵より De profundis」の朗唱とその結びの祈願で終わります。
- (*4)
典礼式聖歌隊:
- 典礼式において聖歌を捧げるために選ばれた生徒たちです。通常は男性のみで構成されます。これは聖歌発祥の地であるダラ・ハッパ(ルナー帝国中部地方)が極端な父権社会であり、女性を単なる動産物とみなしていたためです。
聖フワーレン士官学校では、女性の聖歌隊員も存在します。隊員は通常の授業のほかに、ディーゾーラの女祭から「詩篇」の講義を受け、古ペローリア語の読み書きおよび会話を習い、歌唱術の訓練を受けます。
- (*5)
フランドル学派:
- ファージェンテス王の御代にターシュ王国の政治は安定し、ドラゴンパスとルナー帝国との仲介貿易によって莫大な富が王国に集まるようになりました。王国の各都市ではルナー帝国の影響を受けた文化が華開き、急速に芸術活動が活発になっていきます。そして時代は下り、やがて市井の吟遊詩人たちの中から、神代の音楽とその霊験を復活させようとする一派が現れました。
しかし、大暗黒により古代音楽が殆ど生き延びていない現状で、少しでもその調べに近づく手がかりは、各カルトの聖職者たちが秘蔵する知識と古典資料のみでした。そして吟遊詩人たちは聖歌の作曲という形でディーゾーラ・カルトとの関係を深めていきます。しかし、神代の韻律とはすなわちカルトの秘儀であり、一般に公開することを聖職者たちが許すはずもありませんでした。カルトでは旋律の上行下行の動きを記したネウマという線状の記号の記された古典文献(楽譜)は公開しましたが、音高やリズムを知るには同一の歌詞と同一の旋律の動きとを記譜している解読可能な他の資料と交合しなくてはなりませんでした。これは非常に手間のかかることであり、楽譜の解読が出来るのはごく少数の専門職、つまりは聖職者たちに限られていたのです。
しかし、そこに登場したのがフランドル学派でした。彼らはネウマを改良し、音の長短を四角ネウマ(つまりは音符です)の形状で区別し、さらに譜線をつけることで音高を明確に表示することを可能にしました。それが定量記譜法と呼ばれる手法(現代の楽譜)です。ここに至って、複数の奏者がそれぞれ異なった声部を同時に展開していく多声音楽の再現が可能となったのでした。
しかし、カルトの聖職者はこのことを好ましく思いませんでした。カルトの秘儀が市井の間に流出することを恐れた彼らはフランドル学派の異端審問を要求します。クラウディア・シファー司教はこのような経緯の中、彼らの代弁者として登場したのでした。ミリンズ・クロス公会議は、音楽がカルトの専有物であるのか、それとも世俗の市民たちのものであるのかが争われた会議として、そこで生じた小さな奇跡の記述とともに、歴史書に名を残しています。
- (*6)
グラマーの雅歌:
- ジョヴァンニの作曲した聖歌です。彼は特殊な(そして非常に高価な)薬物による酩酊状態の中で、神代の祭典を幻視したのでした。それはアラクニー・ソラーラが定めた「時」の流れを遡り、因果律を否定する試みです。一種のヒーロークエストといってもよいでしょう。しかしその代償として、彼の生命は急速に削られていきました。
以下に、ソロパート部分の歌詞を抜粋します。「グラマーの娘たち」は帝都の聖職者を、「私の愛する方」は赤の女神を暗示しています。この歌は同時にジョヴァンニの告白でもあります。
Adiuro vos
Adiuro vos filiae Glamour,
si inveneritis dilectum meum,
ut nuncietis ei, quia amore langueo.
Qualis est dilectus tuus ex dilecto,
o pulcherrima mulierum?
Qualis est dilectus tuus ex dilecto,
quia sic adiurasti nos?
Dilectus meus candidus et rubicundus;
electus ex millibus.
グラマーの娘たち、誓ってください。
あなたがたが私の愛する方を見つけたなら
私が愛に病んでいる、とあの方に告げてください。
女のなかで最も美しい人よ、
あなたの愛する方は、ほかの愛する人より
何が優れているのですか。
あなたがそのように私たちに切に願うとは、
あなたの愛する方はほかの愛する人より
何が優れているのですか。
私の愛する方は、輝いて、赤く、
万人より優れています。
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雅歌: | Canticum Canticorum の訳語。旧約聖書中に収められた叙情文学。神とイスラエル民族との愛の関係を歌った歌謡集。 |
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モテット: | 聖書詩篇などを歌詞とする経文歌。ラテン語の無伴奏多声楽曲として十三世紀頃教会で発達。十六世紀以後は伴奏付き独唱曲としても広く行われた。 |
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ルナー精神指導官: | 「ルナー属領地政府」の属領総督( 1612年現在アッピウス・ルクシウス)の補佐官。任期は9年。あらゆる霊的な事柄に対し責任を負っている。他の補佐官職としては、「徴税・出納長官」「属領地軍指令官」がある。 |
この記事を読まれた方はきっとなんて堅いシナリオなんだと思われたことでしょう。……ぼくはそう思いました(笑)。テストプレイではそれなりにコミカルな展開もあったのですが……記事にするとなぜこんなにも堅いのか(トホホ…)。特にジョヴァンニの姪御さん。次から次に降り懸かる災難は、おしんかはたまた小公女セーラか。こんなんプレイヤーにやらせられるかと思ったあなたはきっと善い人です。書き上げてから言うのも何ですが、「ジョヴァンニの姪」はNPCとした方がいいかもしれません。
このシナリオを作成した動機は「グローランサで学園ものをやろう!」です。とてもそうは見えないかもしれませんが(苦笑)。このシナリオをやってみようと思った奇特な方は、なんとか「学園もの」らしくなるよう努力してみてください(ああ、永遠なれグリーンウッド!)。個人的には、どんなシナリオでも、プレイヤーのシンパシーを得るために「コメディ」の要素は大切にしたいと考えています。
それから、シナリオ中に色々書き込まれたうんちくは、説得力ある世界を構築するためのマスター用の情報です。マスターはここに書かれている情報全てをプレイヤーに伝える必要はありません。うんちくを披露するだけのマスタリングとならないように注意してください。
このシナリオは、いわば料理の素材です。これが、少しでも美味しいセッションの具になるよう、好きなようにあなたの腕を奮ってください。あなたのセッションが、元気と正義感だけは有り余ってる少年少女のひたむきな行動が最終的には大人たちの鼻をあかしてしまう、しかも恋あり笑いあり、そんなプレイとなることを願っています。
1996年 歳積月 13日 吉田山にて
田舎老人
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- RQサプリメント一式
- グローランサ年代記 グレッグ・スタフォード 著/桂令夫 訳 HOBBY JAPAN
- 薔薇の名前 上・下 ウンベルト・エーコ 著/河島英昭 訳 東京創元社
- シトー会修道院 ルイス・J・レッカイ 著/朝倉文市 函館トラピスチヌ 訳 平凡社
- 改革派教会の伝統 J・H・リース 著/吉田信夫 訳 新教出版社
- 星の処女神とガリアのヘラクレス フランシス・A・イエイツ/西澤龍生+正木晃 訳 東海大学出版会
- 楽譜の歴史 皆川達夫 著 音楽之友社
- 修道院の台所から エリーズ・ボウルディング 著/平野威馬雄 訳 文化出版局
- 古代ローマ物語 柴田光蔵 著 日本評論社
筆者:田舎老人
この作品はルーンクエストの公式資料ではなく、田舎老人が個人使用するために作成したものです。この作品の使用は本作品の末に明記してある範囲内で自由ですが、それによるいかなる損害の責任も筆者は負いません。
この作品は1995年12月30日に発行された同人誌「RQ Maniacs 2」に掲載されたものです。
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この作品の著作権は著者に帰属します。
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1996年2月5日 田舎老人
(PXG04366@niftyserve.or.jp)
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